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東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)341号 判決 1982年5月20日

原告 総武興業有限会社

被告 葛飾税務署長

代理人 桜井登美雄 新村雄治 ほか二名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  被告が原告に対し昭和五一年六月三〇日付けでした次の三事業年度分の法人税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち、次の部分をいずれも取り消す。

(一) 昭和四七年七月一日から昭和四八年六月三〇日までの事業年度分についての処分のうち、所得金額を二〇二二万二六九〇円として計算した額を超える部分

(二) 昭和四八年七月一日から昭和四九年六月三〇日までの事業年度分についての処分(ただし審査裁決により一部取り消された後のもの)のうち、所得金額を三二八一万六七九五円として計算した額を超える部分

(三) 昭和四九年七月一日から昭和五〇年六月三〇日までの事業年度分についての処分のうち、所得金額を二九〇三万四九二五円として計算した額を超える部分

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二原告の請求原因

一  原告はパチンコの営業等をしている青色申告法人であるが、その昭和四七年七月一日から昭和四八年六月三〇日までの事業年度(以下「本件第一事業年度」という。)、昭和四八年七月一日から昭和四九年六月三〇日までの事業年度(以下「本件第二事業年度」という。)及び昭和四九年七月一日から昭和五〇年六月三〇日までの事業年度(以下「本件第三事業年度」という。)の法人税の課税経緯は次表のとおりである。

本件第一事業年度

(昭和四七年七月一日~昭和四八年六月三〇日)

単位円(以下同じ)

区分

年月日

(昭和)

所得金額

法人税額

過少申告加算税

確定申告

四八・八・三〇

二〇、二二二、六九〇

五、九六三、一〇〇

更正決定

五一・六・三〇

二〇、七二二、六九〇

六、一四五、三〇〇

九、一〇〇

審査請求

五一・八・一九

二〇、二二二、六九〇

五、九六三、一〇〇

同裁決

五二・七・二五

棄却

本件第二事業年度

(昭和四八年七月一日~昭和四九年六月三〇日)

区分

年月日

(昭和)

所得金額

法人税額

過少申告加算税

確定申告

四九・八・二八

三一、二一八、七一一

九、六六六、〇〇〇

更正決定

五一・六・三〇

三九、七五一、〇五八

一三、五一六、二〇〇

一九二、五〇〇

審査請求

五一・八・一九

三一、二一八、七一一

九、六六六、〇〇〇

同裁決

五二・七・二五

三八、八八〇、一四五

一三、一七〇、八〇〇

一七五、二〇〇

本件第三事業年度

(昭和四九年七月一日~昭和五〇年六月三〇日)

区分

年月日

(昭和)

所得金額

法人税額

過少申告加算税

確定申告

五〇・八・二六

二六、五二五、七二七

八、五一七、七〇〇

更正決定

五一・六・三〇

四三、八二三、二〇九

一五、三七八、六〇〇

三四三、〇〇〇

審査請求

五一・八・一九

二六、五二五、七二七

八、五一七、七〇〇

同裁決

五二・七・三五

棄却

二  しかし、被告が右表のとおりいずれも昭和五一年六月三〇日付けでした各法人税の更正処分と過少申告加算税賦課決定処分(以下、本件第一事業年度の分を「本件処分(一)」、本件第二事業年度の分を「本件処分(二)」、本件第三事業年度の分を「本件処分(三)」、またこれら全部を一括して「本件処分」という。ただし、本件処分(二)は審査裁決により一部取り消された後のものをいう。)は、次のとおり違法であり、取り消されるべきである。

1  調査不十分と恣意的判断の違法

青色申告法人に対して更正処分をする場合には帳簿書類の記載以上に信憑性のある資料に基づかねばならず、そのためには裏付資料収集等の十分な税務調査を行わなければならない。ところが、本件では調査担当者が次のとおり感情的になり十分な調査をしなかつた。したがつて、本件処分は十分な調査のないまま恣意的になされたものであつて違法である。

すなわち、被告所部の堀田悦宏係官(以下「堀田係官」という。)は、昭和五一年二月九日に原告本店事務所を訪れて税務調査を開始した。ところで、税理士法三四条は、「申告書を提出した者について、当該申告書に係る租税に関しあらかじめその者に日時場所を通知してその帳簿書類を調査する場合において、当該租税に関し第三十条の規定による書面を提出している税理士があるときは、あわせて当該税理士に対しその調査の日時場所を通知しなければならない。」と規定しているが、この日の調査は、右規定に反し原告の顧問税理士宮本勝之(以下「宮本税理士」という。)に対する事前通知を欠いていたので、宮本税理士は、この日の調査の中止を申し入れ、その後の調査についても帳簿書類は原告の社内で見るようにしてもらいたいと要望した。このことが原因で、堀田係官は、感情的になり、(1)まず、臨場回数にして二回、時間にして丸一日半の調査しかせず、(2)同じゴルフプレーに要した費用につき、本件第一事業年度では交際費として是認しているのに、本件第二、第三事業年度ではこれを否認するといつた首尾一貫性を欠く恣意的処分を行い、(3)また、ゴルフはパチンコに関係がないと決めてかかつて本件処分をしたものである。ちなみに、本訴で被告が提出した書証は、いずれも本件が国税不服審判所に係属した後に収集されたものであり、それらの中に堀田係官が事前調査の過程で収集したものはない。このことからも、事前調査の過程で十分な裏付調査がなされていないことがうかがえるのである。

2  理由附記不備の違法

(一) 本件処分(一)の更正通知書には、更正の理由として、「諸会費科目中否認(ゴルフ入会金計上もれ)五〇〇、〇〇〇円」との標題の下に「太平洋クラブ法人会員券(総武興業有限会社高木学名義)の取得に際し昭和四八年四月一六日入会金五〇〇、〇〇〇円を支払い損害経理されているが、ゴルフ入会金は損金とならないので所得に加算します。」と記載されているが、これではいかなる理由によりゴルフ入会金が損金とならないかを明確に知ることができない。

(二) 本件処分(二)の更正通知書には、更正の理由として、「交際費科目中否認四五〇、二七〇円」との標題の下に「交際費科目に計上されている下記支払金額の内容については使用目的等が不明であつて、会社の損金とは認められないので、使用利益を享受したと認められる代表者高木学に対する利益割賦の賞与と認定し所得に加算します。」と記載され、「記」として別紙一(1)と同一の表が記載されている。また、本件処分(三)の更正通知書にも、「交際費中否認八〇三、九六〇円」という標題の下に本件処分(二)の場合と同一の理由が記載され、「記」として別紙一(2)と同一の表が記載されている。

しかし、このような理由だけでは処分の具体的根拠が明らかになつていない。

(三) 本件処分には、右(一)(二)の点で理由附記不備の違法がある。

3  所得過大認定の違法

本件処分は損金算入を否認する等して原告の所得を過大に認定した違法がある。

三  よつて、第一の一のとおりの判決を求める。

第三請求原因に対する被告の認否と主張

一  請求原因一の事実と同二のうち本件処分の更正通知書に原告主張どおりの更正理由が附記されている事実は認め、その余の請求原因は争う。

二  本件処分の理由附記の適法性

本件第一事業年度のゴルフクラブ入会金及び本件第二、第三事業年度のゴルフプレー費用は、いずれも原告の備付帳簿に記載されていた費用であるところ、法人税法二二条及び租税特別措置法六二条四項所定の損金に該当しないため、損金算入を否認したものである。すなわち、右の損金算入否認は法律解釈上の問題であり、このような場合の理由附記としては、支出内容を特定してそれが損金に当たらない旨を記載すれば足りるのであつて、それ以上に、当該法律解釈の根拠までを記載する必要はない。被告は、損金算入を否認した支出内容につき、その科目、支払年月日、金額、支払先等を明記し、更にゴルフプレー費用については、使用目的等が不明であつて会社の損金とは認められない、との根拠をも付け加えているのである。したがつて、ゴルフクラブ入会金とゴルフプレー費用に関する本件処分の附記理由は、法人税法一三〇条二項の要請を満たしているのであつて、不備はない。

三  本件処分(一)の実体的適法性

本件処分(一)は、次の1、2を合算した二〇七二万二六九〇円を所得金額とするものであり、所得過大認定の違法はない。

1  申告所得金額                 二〇二二万二六九〇円

2  諸会費、科目中否認(ゴルフクラブ入会金計上漏れ)(加算) 五〇万円

原告は、ゴルフ場その他のレクリエーシヨン施設の経営を目的とする株式会社太平洋クラブ(以下「太平洋クラブ」という。)に入会するに際し、昭和四八年四月一六日同会社に対し会員資格保証金四三〇万円とともに入会金五〇万円(以下「本件入会金」という。)を支払い、前者は有価証券として資産に計上したが、後者は諸会費として損金に算入した。

しかし、本件入会金は、原告が太平洋クラブに入会してゴルフ場等の施設を優先的に利用することのできる会員権を取得するために会員資格保証金とともに一体として支出したものであるから、会員権の取得価額を構成するものとして資産に計上すべきものである。課税実務においても、一般に、ゴルフクラブの入会金は、資産に計上すべきものとされている(法人税基本通達九―七―一一)。また、いわゆるゴルフクラブの会員権は取引対象とされ、その取引価額は会員資格保証金預り証の券面額とは異なるのが一般であり、これを譲り受けた者がゴルフクラブに支払わなければならない名義変更手数料も会員権の取得価額を構成するとされており、このような点からも、本件入会金がゴルフ会員権を取得するために支出したものであることが明らかである。

なお、ゴルフクラブを脱退した時に入会金の返還を受けられないときには、これを脱退した年度の損金に算入すべきである。

以上のとおりであるから、本件入会金五〇万円の損金算入は否認すべきである。

四  本件処分(二)の実体的適法性

本件処分(二)は、次の1ないし6の合算額から7を減算した三八八八万〇一四五円を所得金額とするものであり、所得過大認定の違法はない。

1  申告所得金額               三一二一万八七一一円

2  仲介手数料否認(土地計上もれ)(加算)   一九七万三〇〇〇円

原告は、昭和四八年一二月に東京都目黒区原町一丁目一二六七番地所在の土地(以下「原町の土地」という。)と同地上の借地権付建物(以下「原町の建物」という。)とを購入し、その際不動産仲介業者の昇栄地所に対し仲介手数料一九七万三〇〇〇円(以下「本件仲介手数料」という。)を支払い、これを損金に算入した。

法人税法には、このような仲介手数料の経理方法について定めた明文規定はないから、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つてこれを経理すべきである(同法二二条四項)。ところで、右会計処理基準を要約した企業会計原則によれば、貸借対照表に記載する資産の価額は原則として当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならず、有形固定資産の取得原価には原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含めることとされている。そして、法人税法施行令五四条一項は、取得価額の決定が重要な意味を持つ減価償却資産について、右の会計慣行を確認的に明文化し、購入手数料等、当該資産の購入のために要した費用を取得価額に算入する旨規定しており、土地等の非減価償却資産についても、同様の取扱いを行うのが公正妥当な会計処理といえる。したがつて、本件仲介手数料は、原町の土地の取得価額に含まれるべきものであり、その損金算入は否認すべきである。

3  建物減価償却費否認(土地計上もれ)(加算)  四七万〇〇六三円

原告は、原町の建物を一〇三五万円で取得したとして、これについて減価償却費四七万〇〇六三円を損金に算入し、右一〇三五万円から右四七万〇〇六三円を控除した後の九八七万九九三七円を資産として建物勘定に計上した。

しかし、原告は、原町の土地建物の取得当初から、右建物を取り壊して右土地のみを利用する目的であつたから、原町の建物の取得価額とされた一〇三五万円は原町の土地の取得価額に算入すべきであり、建物として資産計上して減価償却するといつたことは許されないのである。したがつて、右減価償却費四七万〇〇六三円の損金算入は否認すべきである(なお、原告が建物勘定に計上した九八七万九九三七円は、建物勘定としては認められないが、土地の取得価額に振替計上すべきもので、所得金額の計算には影響を与えない。)。

4  建物附属設備(簡易造作)償却超過額(加算) 三二三万〇〇一七円

原告は、新小岩駅前にある原告代表者高木学こと李学伊(以下「高木」という。)の所有する建物を賃借してパチンコ店ノーベル会館を経営していたところ、昭和四八年一一月に右店舗の改装工事(以下「本件改装工事」という。)を行い、株式会社鈴木デザインに対して工事代金二一七〇万円(以下「本件改装工事費用」という。)を支払つた。そして、本件改装工事によつて改装された設備(以下「本件改装設備」という。)について、原告は、取得価額二一七〇万円を資産に計上し、資産の種類を「建物附属設備(簡易造作)」、耐用年数を三年(定率法、償却率〇・五三六)、当期の事業に供した期間八か月として、減価償却費を七七五万四一三三円と算出し、これを損金に算入した。

しかし、まず、本件改装工事費用のうち一九四万五四五〇円は旧造作の解体費用であるから、これを損金に算入し、二一七〇万円からこれを控除した一九七五万四五五〇円を本件改装設備の取得価額とすべきである。次に、本件改装設備は、別紙二(1)の番号1ないし4の「種類」「内容」「償却計算の基礎金額」欄のとおりに区分され(区分の根拠は別紙三のとおりである。)、その区分された種類の資産の耐用年数は、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一(以下「耐年省令別表第一」という。)により別紙二(1)の「耐用年数」欄のとおりとなるので、これに基づいて計算すると、本件改装設備の本件第二事業年度の減価償却限度額は別紙二(1)のとおり二五七万八六六六円となる。したがつて、原告が損金算入した七七五万四一三三円から右解体費用一九四万五四五〇円と右限度額二五七万八六六六円とを控除した三二三万〇〇一七円の損金算入は否認すべきである。

耐用年数を右のように認定した根拠を詳述すると次のとおりである。すなわち、(1)本件改装設備のうち内部造作(別紙二(1)番号1、別紙三番号1、取得価額八五七万〇九〇八円)については、建物の本体の耐用年数(「店舗用木造建物」として耐用年数二四年、償却率〇・〇九二となる。)を適用すべきところ、構造変更前の「店舗用木骨モルタル造り建物」として原告に有利な耐用年数二二年、償却率〇・〇九九を適用したものである。(2)本件改装設備のうち自動火災報知設備(別紙二(1)番号2、別紙三番号3、取得価額二四万二二四一円)については、耐年省令別表第一の「建物附属設備」の「消火又は災害報知設備」の耐用年数八年(償却率〇・二五〇)を適用したものである。(3)本件改装設備のうち電気設備(別紙二(1)番号3、別紙三番号2、取得価額四七五万〇九〇三円)については次のように認定した。耐年省令別表第一の「建物附属設備」中の「電気設備」には「蓄電池電源設備」と「その他のもの」とがあるところ、本件の電気設備は右蓄電設備には該当しないので、「その他のもの」の耐用年数一五年(償却率〇・一四二)を適用したものである。(4)本件改装設備のうちその余のもの(別紙二(1)番号4、別紙三番号4、取得価額六一九万〇四九八円)は、主にパチンコ器取付台工事(島工事)によるものと認められるところ、これは、耐年省令別表第一の「器具及び備品」の「娯楽又はスポーツ器具……演劇用具」に該当し、更にその細目中に掲げるいずれにも該当しないため、細目中の「その他のもの」のうちの「その他のもの」の耐用年数五年(償却率〇・三六九)を適用したものである。

原告は、本件改装設備が全体として店用簡易装備に該当すると処理している。しかし、店用簡易装備とは、小売店舗(日本標準産業分類の中分類43~49までの事業の用に供する店舗)における装飾を兼ねた造作、陳列だな及びカウンター等で、短期間内に取替えが見込まれるものをいうのであり、原告の業種はパチンコ業(日本標準産業分類の中分類80)であるから、このような店用簡易装備を有するとは認められないのである。また、耐用年数は、減価償却資産の種類、構造、用途又は細目に従つて法定されているのであり、現実に資産を利用した期間に左右されるものではない。更に、原告は本件改装設備の本体の建物を賃借しているにすぎないが、建物本体に附加された本件改装設備が借家人たる原告の利用に供され、本件改装工事が建物に対する資本的支出と認められる以上、借家人の資産として建物の耐用年数に従つて償却すべきなのである。

5  器具備品(自動補給装置)償却超過額(加算) 一五九万八〇八四円

6  交際費科目中否認(加算)           四五万〇二七〇円

原告は、別紙一(1)のゴルフプレーに要した費用四五万〇二七〇円(以下「本件プレー費用(二)」という。)を交際費として損金に算入した。

原告は、本件プレー費用(二)の使用目的、業務との関連性及び同伴者の氏名等を明らかにしなかつたが、被告が調査したところ、右費用は、原告代表者の高木が個人的に在日韓国人との親睦を深めるために支出したもので、原告の業務とは何らの関連もないものであると認められた。また、仮に、本件プレー費用(二)が原告の業務に関連するか否かが不明であるとしても、客観的に原告の業務との関連性が明確でない本件プレー費用(二)を損金に算入できないことは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に照らしても当然のことである。そこで、本件プレー費用(二)の損金算入は否認すべきである。

7  未納事業税認定損(減算) 六万円

本件処分(一)による増加所得金額五〇万円に対する未納事業税六万円(五〇万円×〇・一二)は、損金に算入すべきである。

五  本件処分(三)の実体的適法性

本件処分(三)は、次の1ないし12の合算額から13及び14を減算した四四七四万八二六三円の範囲内である四三八二万三二〇九円を所得金額とするものであり、所得過大認定の違法はない。

1  申告所得金額                二六五二万五七二七円

2  建物除却損否認(加算)            九八七万九九三七円

原告は、原町の建物を取り壊し、その除却損として九八七万九九三七円を損金に算入した。

しかし、本件第二事業年度分で述べたとおり、右の金額は原町の土地の取得価額に加算すべきもので、建物勘定としては認められないものである(四3)から、右建物除却損は認められない。

3  雑損中否認(土地計上もれ)(加算)          一二〇万円

原告は、有限会社安田解体に依頼して原町の建物を取り壊し、解体費用一二〇万円を支払つた上、これを雑損として損金に算入した。

しかし、右解体費用は、四3で述べたとおり当初から原町の土地だけの利用を目的として取得した原町の建物の解体費用であるから、原町の土地の取得価額に算入すべきものである。

4  建物附属設備(簡易造作)償却超過額(加算)  四二九万八八八一円

本件改装設備について四4と同様に再計算すると、別紙二(2)のとおり四二九万八八八一円の償却超過額が認められるので、この分の損金算入は否認すべきである。

5  器具備品(自動補給装置)償却超過額(加算)  一二三万一六五〇円

6  建物附属設備(簡易間仕切り)償却超過額(加算) 二三万二五〇二円

7  損金計上延滞税(加算)              二万三六〇〇円

8  預金利息等計上もれ(加算)           九五万二二二六円

9  交際費科目中否認(加算)            八〇万三九六〇円

原告は、別紙一(2)のとおりのゴルフプレーに要した費用八〇万三九六〇円(以下「本件プレー費用(三)」という。)を交際費として損金に算入した。

しかし、四6と同様の理由により、本件プレー費用(三)の損金算入は否認すべきである。

10  研究費科目中否認(加算)                四五万円

11  有価証券計上もれ(加算)            一五万一〇二〇円

12  雑収上計上もれ(加算)              一万八九二〇円

13  電話加入権認定損(減算)            一〇万〇七二〇円

14  未納事業税認定損(減算)            九一万九四四〇円

本件処分(二)による増加所得金額七六六万二〇〇〇円(千円未満切捨)に対する未納事業税九一万九四四〇円(七六六万二〇〇〇円×〇・一二)は、損金に算入すべきである。

第四被告の主張に対する原告の認否と反論

一  被告の主張三のうち、1と2の第一段は認め、その余は争う。

本件入会金は、いかなる場合にも返還されず、会員券の券面に表示されて転売価格の基準となるものでもないから、資産に計上すべきではなく損金に計上すべきものである。相手方の太平洋クラブでも、本件入会金は利益として計上しているのであつて、預り金とはしていない。被告は、入会金という表現にとらわれたものであろうが、本件入会金は、被告指摘の通達にいうゴルフクラブの入会金すなわち預託金の性質を有する入会金とは異なるのである。

二1  同四1、5は認める。

2  同四2のうち、前段は認め、後段は争う。

法人税法上、土地を取得するに際して支出した仲介手数料について定めた規定はない。そこで、一般に認められている会計処理の基準に従うべきところ(同法二二条四項)、これによれば、土地の取得に要した手数料については損金処理が認められている。したがつて、被告がこれを土地勘定に計上したことは同法二二条四項に違反するものである。

また、法人税法施行令五四条一項は、減価償却資産を取得するために要した手数料についてはこれを資産に計上すべき旨を規定しているものの、非減価償却資産についてはそのような規定はない。したがつて、右規定を非減価償却資産に類推適用することは、租税法律主義を定めた憲法三〇条に違反する。加えて、減価償却の制度は、損失の各会計期間における負担の均衡を計ることを目的とするにとどまらず、投下資本を回収して再投資を可能にさせる機能を有しているのであつて、法人税法施行令五四条が償却資産については手数料の取得価額への加算を定めながら、減価償却制度のない土地についてはこれを定めなかつたのは、減価償却制度の右二つの機能に由来するものである。したがつて、償却資産についての規定を土地に類推適用するのは、会計学上の減価償却制度の本質を誤解するものである。

3  同四3のうち、前段は認め、後段は争う。

原告は、コインゲーム場を経営する目的で原町の土地建物を購入したところ、その明渡しが延びている間にコインゲームの流行が下火となつたため、当初の計画を諦めて原町の建物を取り壊したものである。被告主張のように、当初から取り壊す目的でこれを購入したものではない。そして、原町の建物は本件第二事業年度末にも現存していたのであるから、これを建物勘定に計上して減価償却費を損金処理するのは当然のことである。

4  同四4のうち、第一段の事実及び二一七〇万円の本件改装工事費用中一九四万五四五〇円が旧造作の解体費用であり、二四万二二四一円が自動火災報知設備費用であることは認め、その余は争う。

(一) 本件改装設備のうち一九五一万二三〇九円(本件改装工事費用から解体費用及び自動火災報知設備費用を控除したもの)分は、パチンコ店において一般に二、三年ごとに取替えが見込まれるものであり、耐年省令別表第一の「店用簡易装備」に該当し、その耐用年数は三年である。被告は「店用簡易装備」が小売店舗にのみ認められ、パチンコ業には認められないと主張するが、法的根拠はない。現に、ノーベル会館では、本件改装工事から三年を経過した昭和五一年一〇月には一六四二万二〇〇〇円をかけて再び改装工事を行い、本件改装設備を撤去しているのである。

(二) 改装工事をした設備が建物の一部として減価償却されるためには、改装工事によつて建物自体に附加価値が生じる場合でなければならない。ところが、本件改装工事はパチンコ店の建物自体の価値を増加させる内容のものではない。

仮に、本件改装工事によつて建物本件に附加価値が生じるとしても、それは建物本体の所有者に帰属するものであつて、借家人たる原告に帰属するものではない。

(三) 被告は、本件改装工事費用のうち六一九万〇四九八円が耐年省令別表第一の「器具及び備品」に属する資産に該当すると主張する。しかし、右工事の内容は、島工事、景品交換場工事及びこれに付随する弱電工事であり、「器具及び備品」には当たらない。「器具及び備品」とは、机、椅子のように移動しても独立した効用のあるものである。

(四) 被告は、本件処分(二)の原処分において、本件改装設備の償却限度額を三六五万三二〇三円と認定し、償却超過額四一〇万〇九三〇円の損金算入を否認した。ところが、審査裁決は、原処分が「店内簡易装備(耐用年数三年)」を適用した部分について「器具及び備品(耐用年数五年)」とし、償却限度額を二五七万八六六六円として、原処分を原告に不利益に変更した。しかし、裁決庁は原処分を審査請求人に不利益に変更することはできない(国税通則法九八条二項)とされており、右の審査裁決はこれに違反し原告に対する拘束力を有しないし、他方で、原処分は右審査裁決により全面的に変更を受けて原告に対する拘束力を失なつている。したがつて、本件処分(二)の建物附属設備(簡易造作)償却超過額否認の部分は取り消されるべきである。

5  同四6のうち、前段は認め、後段は争う。

本件プレー費用(二)は、原告が同業者、取引金融機関その他営業上の関係先等との交際に要した費用であり、交際費として損金算入が認められるべきものである。

6  同四7は争う。

三1  同五の1、5ないし8、10ないし13は認める。

2  同五2、3のうち、各前段は認め、各後段は争う。

二3のとおり、原町の建物は建物勘定に計上されるべきであるから、その除却損と解体費用の各損金算入が認められるべきである。

3  同五4は争う。

原告が本件改装設備の減価償却費七四七万四九八五円を損金に算入したことは認めるが、右償却費は一律に耐用年数三年として計算すべきであり、その理由は二4と同一である。また、二4(四)と同様の理由により、本件処分(三)の建物附属設備(簡易造作)償却超過額否認の部分は取り消されるべきである。

4  同五9のうち、前段は認め、後段は争う。

本件プレー費用(三)は、二5と同様の理由により、交際費として損金算入されるべきものである。

5  同五14は争う。

第五証拠関係 <略>

理由

一  請求原因一の課税経過等の事実は当事者間に争いがない。

二  まず、本件処分に調査不十分と恣意的判断の違法があるかどうかを検討する。

原告は、宮本税理士が税務調査の方法に対して意見を述べたので、堀田係官が感情的になり、短期間の不十分な調査しか行わず、その恣意的な判断に基づいて本件処分が行われた、と主張する。しかし、<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

堀田係官と他二名の係官は、昭和五一年二月九日にはじめて原告の本店に赴いて原告の帳簿書類の一部を調査した。更に、堀田係官らは、同月末ころ原告の顧問税理士をしていた宮本税理士の事務所において原告の帳簿書類を調査した。その一方で、堀田係官らは、本件処分に係る原告の取引先等へ電話照会したり、それら取引先から関係書類を取り寄せる等の調査を行つた。そして、堀田係官らは、一応の判断に達したところで宮本税理士と面会し、調査結果を示しその説明を求めるなどして、本件処分をするに至つた。

以上の事実が認められる。これによれば、本件処分に原告主張のような調査不十分や恣意的判断の違法はないというべきである。

右証拠によれば、原告は当初から税務調査に非協力的であり、また、堀田係官と宮本税理士との間で税務調査の方法について多少の口論があつたことが認められるが、そのために調査不十分だとか本件処分が恣意的判断に基づいて行われたとの事実を認めることはできない。また、右証拠によれば、本件プレー費用(二)(三)が交際費に該当するか否かに関連し、堀田係官が、パチンコ屋とゴルフは関係ないでしようと発言したものの、これは、ゴルフプレー費用を交際費としては一切認めることができないと決めてかかつての発言ではなく、その業務関連性についての説明を求める過程での発言であり、被告としては、原告代表者の高木や宮本税理士が同伴者の氏名等を開示しない等非協力的で、ゴルフクラブに対する照会も行つたものの、本件プレー費用(二)(三)の業務関連性が明らかにならなかつたため、使用目的等が不明であるとしてその損金算入を否認せざるを得なかつたものと認められ、本件プレー費用(二)(三)の損金算入否認の点をとらえて、被告の調査が不十分だとか、判断が恣意的であるということはできない。更に、本訴で提出された乙号証の多くは、作成日付からみて原処分後に収集作成されたと認められ、また、本件第一事業年度においては、ゴルフプレー費用の損金算入否認が行われていないことが弁論の全趣旨から明らかであるが、そのことも右結論を左右するものではない。そして、他に、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三  次に、本件処分に理由附記不備の違法があるかどうかを判断する。

1  本件処分(一)の更正通知書に、本件入会金の損金算入を否認する理由として、原告主張どおりの理由(請求原因二2(一))が附記されている事実は当事者間に争いがない。右附記理由は、損金経理された本件入会金が損金とならないことを説明したものであり、否認対象項目の特定に欠けるところはなく、かつ、否認理由についても、本件入会金の法的性格として損金にならないことを明らかにしており、処分庁の判断の慎重と合理性を担保するとともに相手方に不服申立ての便宜を付与するという理由附記制度の目的に反することはない。本件入会金が損金になるか否かは法律解釈の問題であつて、処分庁の結論が示されておれば、当該法律解釈を採用した根拠が述べられていなかつたとしても、理由附記に不備はないというべきである。

2  本件処分(二)(三)の更正通知書に、本件プレー費用(二)(三)の損金算入を否認する理由として、原告主張どおりの理由(請求原因二2(二))が附記されている事実は当事者間に争いがない。右各附記理由は、交際費科目に計上された本件プレー費用(二)(三)について、支出年月日、金額、支出先等により特定し、その支出のあつたこと自体は認めた上で、使用目的等が不明で原告の業務との関連性が明らかでないから原告の損金とは認められないことを述べたもので、更正の附記理由として欠けるところはない。本件プレー費用(二)(三)が損金として認められるためには、その使用目的が明らかであつて、原告の業務の遂行に関連のあるものであることを必要とするのであつて、原告の帳簿書類自体を調査しても本件プレー費用(二)(三)の使用目的等が明らかでないというのであれば、その旨を指摘すれば足り、それ以上に、本件プレー費用(二)(三)の対象となつたゴルフプレーの目的が何であつたかを資料を摘示して積極的に明らかにすることまでは、理由附記制度の要求するところではない。したがつて、本件処分(二)(三)に理由附記不備の違法はないというべきである。

四  そこで、進んで、本件処分に所得過大認定の違法があるかどうかを判断する。まず、本件第一事業年度の所得金額を検討する。

1  本件第一事業年度の原告の申告所得金額が二〇二二万二六九〇円であることは当事者間に争いがない。

2  本件入会金について

原告が、ゴルフ場その他のレクリエーシヨン施設の経営を目的とする太平洋クラブに入会するに際し、昭和四八年四月一六日太平洋クラブに会員資格保証金とともに本件入会金五〇万円を支払い、これを損金に算入したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、太平洋クラブに入会するためには資格保証金を支払うだけでは足りず、これとともに入会金を支払わなければならず、これらをともに支払つてはじめて会員としての資格を取得し、太平洋クラブのゴルフ場その他の施設を利用できるようになること、この会員としての資格は譲渡することができ、入会金もその際の取引価額に反映されることが認められる。そうすると、本件入会金は、右のような権利性を有する太平洋クラブの会員としての資格すなわちいわゆる会員権を取得するための費用ということができるから、右会員権の取得価額の一部として資産に計上すべきである。したがつて、本件入会金の損金算入は否認すべきである。

原告は、本件入会金はいわゆるゴルフクラブ入会金とは異なりいかなる場合にも返還されないことが既に支払時に確定しているとか、これを受け取る太平洋クラブが預り金ではなく利益として計上しているとして、本件入会金を損金算入すべきであると主張するが、そのような事情は右結論を左右するものではない。本件入会金は太平洋クラブの会員としての資格を取得するために不可欠の費用であるから、それが返還されないかどうかや太平洋クラブ側の経理処理方法のいかんにかかわらず、取得費として資産に計上すべきものである。なお、<証拠略>によると、法人税基本通達九―七―一一は、ゴルフクラブの入会金は資産として計上するものとすると定めていることが認められるが、太平洋クラブはゴルフ場の利用だけを目的とするクラブではないから、右通達の定めが本件にそのままあてはまるかどうか全く問題がないわけではないにしても、太平洋クラブの会員権も、ゴルフ場の利用を主たる目的とし、譲渡性を有するものであるから、本件入会金について、一般のゴルフクラブの入会金と取扱いを異にすべき理由はない。

3  よつて、本件第一事業年度の所得金額は右1、2を合算した二〇七二万二六九〇円であり、これを所得金額とする本件処分(一)に所得過大認定の違法はない。

五  次に、本件第二事業年度の所得金額を検討する。

1  申告所得金額が三一二一万八七一一円であること(被告の主張四1)、器具備品(自動補給装置)償却超過額が一五九万八〇八四円であること(同四5)は当事者間に争いがない。

2  仲介手数料否認(土地計上もれ)について

(一)  原告が、昭和四八年一二月に原町の土地と建物とを購入した際、昇栄地所に本件仲介手数料一九七万三〇〇〇円を支払い、これを損金に算入したことは当事者間に争いがない。

ところで、法人税法上、土地の取得に際して支出した仲介手数料が当該土地の取得価額を構成するか、あるいは支出した事業年度の損金に算入されるべきかを定めた明文の規定はない。しかし、同法は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の損金の額に算入すべき原価、費用及び損失の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるべきことを規定している(二二条三項、四項)から、右の問題も一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて判断すべきである。そして、一般に公正妥当な会計処理の基準を要約したものと認められる企業会計原則第三の五によれば、貸借対照表に記載する資産の価額は原則として当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならず、更に有形固定資産の取得原価には原則として当該資産の引取費用等の付随費用を含めることとされている。法人税法施行令(以下「令」という。)五四条一項は固定資産のうちの減価償却資産の取得価額の範囲について規定しているが、これは右会計慣行を具体化してこれを明文化したものにすぎず、右会計慣行と異なる格別の定めをしたものではないと解される。したがつて、土地等の非減価償却資産についても、右企業会計原則に従い、また、これを具体化した令五四条一項の規定を類推適用して判断するのが相当である(東京地方裁判所昭和五〇年八月二八日判決・行集二六巻七・八号九四四頁、同昭和五二年八月三〇日判決・シユトイエル一九一号二七頁参照)。

そうすると、本件仲介手数料は、企業会計原則にいう付随費用として、また、令五四条一項一号にいう購入手数料その他当該資産購入のために直接要した費用として、原町の土地の取得価額に含まれることになる(なお、本件仲介手数料は、原町の土地だけではなく、原町の土地と建物とを一括購入するために支払われたものではあるが、後記3のとおり原町の建物については独自の取得価額がないから、本件仲介手数料はその全部が原町の土地を取得するために要した費用と考えるべきである。)。よつて、本件仲介手数料の損金算入は否認すべきである。

(二)  原告は、土地を取得するために要した手数料はこれを損金算入すべき会計処理基準があると主張するが、そのような会計処理基準はない。

原告は、また、令五四条一項の規定は減価償却資産の場合を定めたものだから、そのような明文の定めのない非減価償却資産について右規定を類推適用するのは租税法律主義に反すると主張する。しかし、右規定を類推適用するのは前記のとおり法人税法二二条三項、四項の趣旨に合致するのであり、また、減価償却資産について特に令五四条一項のような規定が設けられた趣旨は、減価償却資産にあつては取得価額の決定が減価償却費を算定する上で重要な意味を持つため、その取得価額の範囲を確認的に明らかにする必要があるとされたことによるものである。原告の右主張は採用できない。

更に、原告は、減価償却資産と非減価償却資産の会計学上の相違を強調するが、取得価額の範囲に関しては両者を異別に解さなければならない理由はない。

3  建物減価償却費否認(土地計上もれ)について

(一)  原告が、原町の建物を一〇三五万円で取得したとして、これについて減価償却費四七万〇〇六三円を損金に算入し、右一〇三五万円から右四七万〇〇六三円を控除後の九八七万九九三七円を資産として建物勘定に計上したことは当事者間に争いがない。

(二)  原告は、原町の建物をコインゲーム場に使用する目的で原町の土地建物を購入したと主張するところ、<証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(1) 原町の土地は早川為の所有に属し、石井操が同土地の一部を借りて建物一棟を所有し、同じく笹川銀次郎が同土地の残りを借りて建物四棟を所有していたところ(これらの建物が「原町の建物」)、原告は、昭和四八年一二月二七日、同人らから原町の土地建物を購入する旨の売買契約を締結した。売買代金は、土地一坪当たり七五万円とし、早川為の底地権がその一五パーセントに当たる一一万二五〇〇円、石井操及び笹川銀次郎の借地権がその八五パーセントに当たる六三万七五〇〇円と定められ、建物については独自の価額が設定されなかつた。

(2) 原町の建物はいずれも戦後まもなく建てられたもので、昭和四八年当時は既に老朽化しており、原告と石井操、笹川銀次郎との間の売買交渉に際しても、原告はこれを取り壊す予定であることを言明し、売買代金の決定については右のとおり借地権の価額のみが問題とされ、建物自体の価額は無視され、当然のことながら、石井操の建物と笹川銀次郎の建物との床面積等の相違も考慮されなかつた。そして、石井操の建物は、一部二階建ての一棟であるが、いくつもの小部屋に間仕切りされており、また、笹川銀次郎の建物は、近接しているものの独立した四棟で、大きいものでも床面積が約一三坪程度であり、これらをそのまま利用して全体として一個のコインゲーム場とすることは構造的に極めて困難であつた。また、原告は、原町の建物をコインゲーム場に改装するための設計や見積りを依頼していなかつた。

(3) 原告は、原町の土地建物の購入代金調達のため、昭和四九年五月七日に中央信用金庫小岩支店に対し融資の申込みをしているが、その際の借入申込書に、建物老朽化のため取り壊して空地とし将来支店設置予定である旨を記入した。

(4) 原告は、昭和四九年七月一六日、原町の土地建物の引渡しを受け、その所有権移転登記手続を経由した。しかし、原告は、原町の土地建物の引渡しを受けた後、これを事業の用に供することなく、管理人も置かず空家として放置し、引渡しを受けてから約一か月後の同年八月一七日には建物の取壊作業に着手してこれを取り壊した。そして、原告は、昭和五一年には原町の土地上に三階建の建物を新築した。

以上の事実を総合すると、原告は当初から原町の建物を取り壊してその敷地である原町の土地のみを建物新築用地に使用する意図であつたものであり、石井操及び笹川銀次郎との売買契約においても原町の建物自体の価額は考慮されず、同人らに支払つた売買代金はすべて原町の土地の借地権の取得価額を構成するものと認めるのが相当である。

<証拠略>のうち右認定に反する部分は措信できない。なお、

<証拠略>によれば、原告は原町の建物について所有権移転登記手続を経由したことが認められる。原告は、この点をとらえ、取得当初から取壊目的であつたならばわざわざ所有権移転登記をするはずがないと主張する。しかし、<証拠略>によれば、原町の建物の固定資産税評価額は五一万七八〇〇円(石井操分)と六万七〇〇〇円(笹川銀次郎分)、登録免許税も二万五三〇〇円(石井操分)と三二〇〇円(笹川銀次郎分)と低額であつて、右登記が原告に過大な負担をもたらすものでないことが認められ、取壊しの目的があつたにせよ、右登記が原町の建物、ひいては原町の土地に対する原告の権利を万全ならしめるに有用なものであることを考えると、右登記をしたことが右認定を左右するものとは認め難い。その他、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  そうすると、原告が原町の建物の取得価額として資産計上した一〇三五万円は、原町の土地の取得価額に算入すべきものであり、原町の建物について減価償却を行う余地はない。したがつて、結局、原町の建物の減価償却費として損金に算入された四七万〇〇六三円は申告所得に加算すべきである(なお、原告が建物勘定に計上した九八七万九九三七円は、建物勘定としては認められないが、土地の取得価額に振替計上すべきもので、所得金額の計算には影響を与えない。)。

4  建物附属設備(簡易造作)償却超過額について

(一)  原告が、パチンコ店ノーベル会館の改装工事を行い、本件改装工事費用二一七〇万円を本件改装設備の取得価額として資産に計上した上、本件改装設備を建物附属設備(簡易造作)、耐用年数三年(定率法の償却率〇・五三六)、当期の事業に供した期間八月として、当期の減価償却費七七五万四一三三円を損金に算入したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、本件改装工事はノーベル会館の床、壁、天井、入口、便所、地下室、パチンコ器取付台、景品交換所等の内部造作を全面的に改装したものであり、本件改装工事費用二一七〇万円は別紙三記載のとおりに分類され、うち一九四万五四五〇円は旧造作の解体費用であつて全額が損金に算入さるべきものであり、減価償却資産たる本件改装設備の取得価額には該当しないこと、残り一九七五万四五五〇円は減価償却資産たる本件改装設備の取得価額に該当するところ、うち八五七万〇九〇八円は耐年省令別表第一の「建物・木造・店舗用(耐用年数二四年)」の取得価額に、うち二四万二二四一円は同じく「建物附属設備・災害報知設備(耐用年数八年)」の取得価額に、うち四七五万〇九〇三円は同じく「建物附属設備・電気設備・その他のもの(耐用年数一五年)」の取得価額に、うち六一九万〇四九八円は同じく「建物附属設備・器具及び備品・娯楽器具・その他のもの・その他のもの(耐用年数五年)」の取得価額にそれぞれ該当することが認められる(解体費用及び災害報知設備の金額については当事者間に争いがない。なお、別紙三の「仮設工事・現場諸経費等」及び「値引金額」は、対象工事が不明であるため、別紙三記載のとおり按分するのが相当である。)。そうすると、結局、本件改装設備の本件第二事業年度の償却限度額は、別紙二(1)記載のとおり二五七万八六六六円となる(ただし、別紙二(1)の番号1の建物は「木造」として耐用年数二四年を適用すべきであるが、原告に有利な被告主張の「木骨モルタル造」として耐用年数二二年を適用する。)。したがつて、原告が損金経理した七七五万四一三三円から右限度額と損金算入すべき前記解体工事費用とを控除した三二三万〇〇一七円の損金算入を否認すべきである。

(二)  原告は、本件改装設備のうち自動火災報知設備を除く一九五一万二三〇九円分はパチンコ店において一般に二、三年ごとに取替えが見込まれる性質のもので、現に昭和五一年一〇月に撤去されているから、耐年省令別表第一の「店用簡易装備」に該当し、耐用年数三年を適用すべきである、と主張する。しかし、<証拠略>によると、本件第二、第三事業年度当時の耐用年数の適用等に関する取扱通達二―二―六は、「店用簡易装備」とは、小売店舗における装飾をかねた造作(例えば、ルーバー、壁板等)、陳列だな(器具及び備品に該当するものを除く。)及びカウンター(比較的容易に取替えのできるものに限り、単に床の上においたものを除く。)等で短期間(おおむね別表第一の「店用簡易装備」に係る法定耐用年数の期間)内に取替えが見込まれるものをいう、と定めていたことが認められる。適用対象を小売店舗に限定すべきか否かはともかく、耐年省令別表第一の全体の構成からみて右通達の解釈は妥当なものと考えられるところ、本件改装設備が右通達の定めに該当しないことは明らかである。そして、本件改装工事は、ノーベル会館の床、壁、天井、入口、便所、地下室、パチンコ器取付台、景品交換場等の全面的改装を行つたもので、本件改装設備が全体として耐用年数三年の「店用簡易装備」に該当しないことは明らかである。原告が最も強調するパチンコ器取付台も、耐年省令別表第一の中では「娯楽器具・その他のもの・その他のもの」に該当すると解するのが相当である。<証拠略>によれば、ノーベル会館は昭和五一年に再び改装されたが、これはパチンコ器取付台(島)の取替えとそれに附随する工事が中心であり、昭和四八年の本件改装工事と全般的に重複するものではないことが認められる。そして、パチンコ器取付台等が前記耐用年数の経過を待たないで取り替えられたとしても、その場合の未償却部分はその時点で除却損となるのであるから、実質的な不都合は生じないと考えられるのである。

原告は、本件改装工事が建物本体の価値を増加させるものでないと主張するが、本件改装設備のうち「建物」の耐用年数を適用した分は、別紙三番号1の内容から明らかなように建物本体の価値を増加させるものであり、右主張は採用できない。また、原告は建物本体の所有者ではなく借家人にすぎないが、原告は本件改装設備を自己の利用に供するために造作したものであり、かつ、建物本体の所有者は原告の代表者であつて、賃貸借期間が更新されず、造作買取も請求できないという事情にはないから、本件改装設備のうち建物と一体となる部分も借家人の資産として建物本体の耐用年数に従つて償却するのが相当である。

原告は、本件改装設備のうち六一九万〇四九八円を要した島工事、景品交換場工事及び弱電工事によつて完成された部分は、移転しても独立した効用がないので、耐年省令別表第一の「器具及び備品」には該当しないと主張する。しかし、右の「器具及び備品」の中に、看板、ネオンサイン、劇場用観客いすなど、通常、特定の建物に合わせて製作され、他に移動して効用をなさないものも含まれていることを考えると、「器具及び備品」をもつて原告主張のように限定した解すべき理由はない。

原告は、本件処分(二)(三)の原処分の建物附属設備(簡易造作)償却超過額否認の部分は審査裁決により全面的に変更され、原告に対する拘束力を失つたから取り消されるべきである、と主張する。主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、<証拠略>によると、本件処分(二)(三)の原処分が、旧造作の解体費用をも本件改装設備の取得価額に算入して本件第二事業年度の償却限度額三六五万三二〇三円及び償却超過額四一〇万〇九三〇円、本件第三事業年度の償却限度額三九九万六七五八円及び償却超過額三四七万八二二七円として、右償却超過額の損金算入を否認したのに対し、審査裁決は、原処分が「店用簡易装備(耐用年数三年)」を適用した部分につき「器具及び備品(耐用年数五年)」を適用したものの、解体費用を本件改装設備の取得価額に算入すべきではなく、全額損金に算入すべきであるとして、本件第二事業年度の償却限度額二五七万八六六六円及び償却超過額三二三万〇〇一七円(当期償却額から右の解体費用及び償却限度額を控除したもの)、本件第三事業年度の償却限度額三一七万六一〇四円及び償却超過額四二九万八八八一円と判断し、本件第二事業年度の原処分認定の償却超過額が右認定額を八七万〇九一三円上回ることになつたため、その分につき右原処分の所得金額及び税額を減額したことが認められる。すなわち、本件第二事業年度についていえば、審査裁決は原処分の課税根拠を全面的に否定し、別個の課税根拠を認定したものではなく、原処分の課税根拠につきその同一性を害さない限度で原告に有利に修正を加えたものにすぎない。そうだとすれば、原処分は、審査裁決により右の限度で一部取消しを受けたというにすぎず、審査裁決により全面的に効力を否定されるいわれはない。また、本件第三事業年度についていえば、審査裁決は、原処分と同一の課税根拠に基づき、その認定額の範囲内にある原処分を是認しているのであつて、原処分が審査裁決の故に効力を否定されるいわれはない。なお、右のような事実関係の下においては、被告が本訴で審査裁決の判断に従つた課税根拠の主張をすることに妨げはないというべきである。

以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、(一)の結論を左右するものではない。

5  交際費科目中否認について

原告が別紙一(1)のとおりの内容の合計四五万〇二七〇円の本件プレー費用(二)を支出し、これを交際費として損金に算入したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、本件プレー費用(二)はいずれも原告代表者の高木がプレーしたゴルフの費用であること、その際の同伴者の多くは高木と同じ在日韓国人で、金融、キヤバレー、パチンコ、土木等の事業をしている者であり、原告の事業に直接関係する者ではないこと、ゴルフプレーはいずれも親睦を主たる目的としたもので、それ以上の格別の意味はなかつたこと、高木は、在日本大韓民国居留民団品川支部長を勤めるほか、原告のほかに日生商事株式会社の代表取締役も兼ね、妻又は息子が代表取締役をする株式会社高木商事及び有限会社ノーベル会館の経営にも関与しており、ゴルフ好きであつたこと、以上の事実が認められる。そうすると、本件プレー費用(二)は、原告の事業との関連性が認められず、交際費等すなわち得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、きよう応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出するもの(租税特別措置法六二条四項)、ということはできない。右ゴルフプレーは原告代表者の高木個人が在日韓国人のゴルフ同好者等との交遊を兼ねつつ自己の趣味として行つたもので、本件プレー費用(二)は高木個人に対する臨時の給与として役員賞与に該当するというべきである。

原告代表者は、右のようなゴルフに出かけることにより、同業者や他の事業者等から有益な情報を入手したり、従業員対策、資金対策の便を得たりすることができ、本件プレー費用(二)は原告の事業にとつて欠かせない交際費であると供述する。確かに、そのような便益は考えられるが、それは事業家としての高木個人の問題であるにとどまり、未だ原告の事業との具体的な関連性に結びつく事柄ではない。したがつて、このようなことをもつて前記結論が左右されるものではない。

そうすると、本件プレー費用(二)の損金算入は否認すべきである。

6  未納事業税について

本件第一事業年度の所得金額は本件処分(一)によつて五〇万円だけ増加したわけだから、これに対する未納事業税六万円は本件第二事業年度の損金と認めるべきである。

7  そうすると、本件第二事業年度の所得金額は右1ないし5の合算額から6を減算した三八八八万〇一四五円であり、これを所得金額とする本件処分(二)に所得過大認定の違法はない。

六  次に本件第三事業年度の所得金額を検討する。

1  申告所得金額が二六五二万五七二七円であること(被告の主張五1)、これに器具備品(自動補給装置)償却超過額一二三万一六五〇円(同五5)、建物附属設備(簡易間仕切り)償却超過額二三万二五〇二円(同五6)、損金計上延滞税二万三六〇〇円(同五7)、預金利息計上もれ九五万二二二六円(同五8)、研究費科目中否認四五万円(同五10)、有価証券計上もれ一五万一〇二〇円(同五11)及び雑収入計上もれ一万八九二〇円(同五12)を加算し、電話加入権認定損一〇万〇七二〇円(同五13)を減算すべきことは当事者間に争いがない。

2  建物除却損否認及び雑費中否認(土地計上もれ)について

原告が原町の建物を解体し、建物除却損九八七万九九三七円と解体費用(雑費)一二〇万円を損金に算入したことは当事者間に争いがない。

しかし、前述のとおり、原町の建物は原町の土地を利用するために取壊目的で取得したもので、独自の取得価額がなかつたものであるから、右はいずれも土地の取得価額に算入すべきものであつて、損金算入は認められない。

3  建物附属設備(簡易造作)償却超過額について

原告が本件改装設備の減価償却費七四七万四九八五円を損金に算入したことは当事者間に争いがない。

しかし、本件第二事業年度で求めた数値を基礎にして本件改装設備の償却限度額を計算すると、別紙二(2)のとおりになるので、償却超過額四二九万八八八一円の損金算入を否認すべきである。

4  交際費科目中否認について

原告が別紙一(2)のとおりの内容の合計八〇万三九六〇円の本件プレー費(三)を支出し、これを交際費として損金に算入したことは当事者間に争いがない。

<証拠略>によれば、本件プレー費用(三)の性質も本件プレー費用(二)と同様であることが認められる(ただし、別紙一(2)の番号26の支出は、原告が顧問税理士の宮本税理士を接待するための交際費であつたと解する余地があるので除外する。)。なお、原告代表者は、本件プレー費用(三)の中にはパチンコ器のセールスマンやパチンコ景品問屋と同行した分が含まれている旨供述するが、裏付証拠を欠き、直ちに措信できない上、これらの同行者が原告において接待すべき相手とも認め難く、右供述をもつて右同行分の費用を交際費と認めることはできない。したがつて、少なくとも七五万三九六〇円の損金算入は否認すべきである。

5  未納事業税認定損について

本件第二事業年度の所得金額は本件処分(二)によつて七六六万二〇〇〇円(千円未満切捨)だけ増加したわけだから、これに対する未納事業税九一万九四四〇円は本件第三事業年度の損金と認めるべきである。

6  そうすると、本件第三事業年度の所得金額は、右1に2ないし4を加算し、5を減算した四四六九万八二六三円であり、その範囲内である四三八二万三二〇九円を所得金額とする本件処分(三)に所得過大認定の違法はない。

七  以上のとおり、本件処分に原告主張の違法はなく、原告の請求はいずれも理由がない。よつて、原告の請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 泉徳治 大藤敏 岡光民雄)

別紙一ないし三 <略>

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